「メロンをうっとるだよ」「つらいとおもわなんだ」「ことばがめのかわりだで」「ラジオをきいちゃあ、アドバイスをくれたよ」「くつだしてみがくだけどね」「うみはいいよ。まいにちみとる」「ふねが水平線にきえていくのをながめとる」「わたしはおとうさんとすんだはまのみせにずっとおるだよ」
ぜんぶ三河ことばだ。三河ことばがほのままのかたちで新聞にのっとっただよ。
五感のたび - 渥美半島 (5) - ちゅうにちゆうかん - 2015.5.16 どようび
伊良湖岬(いらごみさき)のちかくのはまでちゃやをやって56年。高橋富久子といいます。80才で、まごらとおおあさりやメロンをうっとるだよ。たのしいよ。
結婚は17。おんなじむらのむっつうえのおとうさんと。終戦后でなんにもなくて、オート三輪のにだいにゆられて、およめいり。きれいな満月だった。
電気も水道もないけど、つらいとおもわなんだ。おとこのこがふたり。おとうさんがみやげものもうる食堂をたてて、「灯台ちゃや」ってなづけた。
伊勢湾台風でいえが全壊しちゃってね。でもくじけずまいにちおそくまではたらいた。フェリーや海水浴場ができて、観光バスにひと、ひと、ひと・・・おおあさりもよくうれたよ。
おとうさんははたらきものだけどおさけがすきで。糖尿病から全盲になってしまった。「もういちどはたらきたい」ってなみだをながすのがかわいそうで。
でもわたしがあかるくせんと。ことばがめのかわりだで。おとうさんのてをいつもかたにのせて、みさきをまわった。病院がよいも「小旅行だ」とよろこんどった。わたしが俳句をはじめると、ラジオをきいちゃあ、アドバイスをくれたよ。
1993年のあきだ。なくなったのは。ときどき、おとうさんのくつだしてみがくだけどね。
うみはいいよ。まいにちみとる。ひのでは遠州灘(えんしゅうなだ)がこがねにそまって、とってもきれい。ゆうやけはどんどんいろがかわって、ふねが水平線にきえていくのをながめとる。
むすこ夫婦があたらしいいえをたてていちばんいいへやをくれても、わたしはおとうさんとすんだはまのみせにずっとおるだよ。来世(らいせ)もまたいっしょになりたい。ここでいっしょに商売をやりたいよ。
- 「おひかけて つま(夫)のてをとる はるのゆめ」
文=小椋由紀子
写真=田中久雄
渥美半島編をおわり、次回は長良川をたずねます
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おさないころからいまにいたるまでの半世紀以上にわたり、三河ことばをはなしてきた筆者として、とってもうれしかった。これから三河ことばがまっとようけ活字になると、まっとうれしい。