あきひこのいいたいほうだい

いいたいほうだいってほどいいたいほうだいにいえるわけじゃないけど、おりおりにかんじたこと、かんしんしたことなんかをかいていくよ

ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん

ショッピングモールにくるひとたちって、ただみんな日常としてかいもんをしていくだけのひとたちっておもっとった。いや、ほんなことなかった。みんな、なやみやしんぱいごとやかなしみをいっぱいもっとるひとたちだった。ほんなひとたちのことを理解し、ほのひとたちのきもちによりそううたをうたってあげとるひとがおった。

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“ショッピングモールの歌姫” 秘話|NHK|2017年7月13日

  • いまショッピングモールで歌われている、ある歌に共感の輪が広がっています。歌うのはシンガーソングライターの半崎美子さん(36)。
    ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (1) うたっとるとこ
  • その歌声は行き交う買い物客の涙を誘い、「ショッピングモールの歌姫」とも呼ばれています。歌が生まれるきっかけは半崎さんに届いた1通の手紙でした。

“モールの歌姫” 当初は閑散

  • 半崎美子さんはこれまで、全国200か所以上のショッピングモールで歌ってきました。はじめの頃は、半崎さんいわく「観客がおじいさんと犬1匹」。犬が動き出したら終わり、という閑散とした状況だったといいます。
  • しかし、その透き通るような歌声に足を止める買い物客が少しずつ増え、いつしかショッピングモールの一角が観客でいっぱいになるほどの人気となっていきました。
    ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (2) 公演
  • 半崎さんは、歌手を目指して北海道から19才で上京。この春までは17年間、事務所にも所属せず、ひとりで活動してきました。それだけに運営スタッフがつくようになった今も、ガムテープを片手にみずからチラシを貼り付けるなど、会場の準備が気になって落ち着かないといいます。
  • 開演前の紹介アナウンスは今もみずから行います。
    「それでは、半崎美子さんのご登場です。どうぞ拍手でお迎えください!」
    これには会場からも小さな笑いが起こります。
    ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (3) 紹介

観客の思いに寄り添う歌を

  • 自分で作詞作曲をする半崎さん。その最大の特徴は、観客の思いを受け止めて生み出す歌詞にあります。
  • NHKの「みんなのうた」で人気が高まった「お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~」。
    “あなたの好きなものばかり 入れられないのよ許してね 体のことも考えて 作っているのよ”
    毎日のお弁当作りを手紙にたとえて、子どもの成長を見守る母親の気持ちを歌にしました。
  • 「サクラ~卒業できなかった君へ~」は若くして亡くなった人に思いを馳せた歌です。
    “桜 花びらが舞う 一緒に見ていた夢を ふわり空にのぼった あなたに送りたい”
  • こうした聞き手に寄り添う歌に、ショッピングモールを訪れた観客は、涙を流しながら聞き入ります。
  • さらに特徴的なのが、演奏后のサイン会です。観客が次々と自分の境遇を半崎さんに打ち明けます。「長女を亡くしている」「難病を患っている」「家族関係に悩んでいる」ーーー涙を流しながら伝えると、半崎さんも泣きながら観客の手をしっかりと握りしめます。
  • 長い時は3時間以上。半崎さんも泣きっぱなしです。サイン会でのやり取りを何よりも大切にしているという半崎さん。「手と手で力強い握手を交わすと、そこに皆さんの気持ちが伝わって固い約束を結んだような感覚になります」と話します。
    ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (4) サイン会

きっかけは「1通の手紙」

  • 半崎さんが、人の悩みや思いに寄り添う歌を作るようになったきっかけは、観客からもらった1通の手紙でした。
    ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (5) 1通のてがみ
  • 手紙には、“実は、私は息子を亡くしています。朝の登校途中、突然、対向車線からクレーン車が突っ込んできて、息子を含めて6人の児童が亡くなりました。ずっと心の中に悲しみがあります…”と書かれていました。
  • この手紙を送ったのは、栃木県鹿沼市の伊原加奈子さん(46)です。伊原さんは6年前、息子の大芽くん(当時9)を亡くしました。
    「当時は生きているだけで精いっぱいで思い出せばつらいし、会いたいし…」
    伊原さんは癒えることのない悲しみを抱えています。
  • いまも毎日、大芽くんのごはんを作り、食卓に一緒に並べています。夜は、大芽くんの枕を抱きしめて眠るといいます。そんな伊原さんが、ショッピングモールで偶然耳にしたのが、半崎さんの歌でした。その包み込むような歌声に触れ、伊原さんはすぐに、半崎さんに手紙を書きました。その一節にあった言葉です。
    “辛いですが…希望をもって生きたい”
  • 深い悲しみを抱えながらも前に進もうという思い。半崎さんは手紙を何度も何度も読み返したといいます。そして1年後に生まれたのが半崎さんの代表曲ともいえる「明日(あす)へ向かう人」です。
  • 「自分のなかでなかなか消化しきれない気持ちがずっと沈殿していた」と話す半崎さん。ある日、ピアノに向かっている時にふいにあふれるように歌詞が心に浮かび、一気に曲が完成したといいます。
    “前を向くそれだけでも辛いことが時にはある それでも進むことをあきらめないで”
  • 半崎さんはこの歌に、「“頑張って”とエールをおくるよりは、隣を並走しているように少しでも、そっと支えたり、たたえたりできたら」という思いを込めたといいます。

歌が心の支えに広がる共感の輪

  • こうして生まれた「明日へ向かう人」は、伊原さん家族の心の支えになっています。
  • 去年2016年3月、大芽くんが生きていれば中学校の卒業式の日。迷いながらもお祝いのケーキを買った帰り道、車の中でこの歌が流れ、せきをきったように涙が流れたといいます。そして不思議と、涙の後は力がわいてくると伊原さんは話します。
  • いま、伊原さんは、近くのショッピングモールで半崎さんの公演が開かれると必ず足を運んでいます。
    “西の空に沈む陽よ 明日へ向かうあなたを照らせ 傷ついたその背中を優しく支えるように”
    “声を枯らして泣いても 辿り着けない場所がある それでも生きることを信じることをあきらめないで”
  • 半崎さんから贈られた歌の意味を伊原さんはこう受け取っています。
    「半崎さんを通して、大芽が『僕がいなくなっても大丈夫だから、頑張って生きて』とメッセージを送ってくれている気がします」
  • 伊原さんの思いから生まれた「明日へ向かう人」。
    いま共感の輪が広がっています。「この歌に励まされた」という声は多く、ほとんどの公演は最后にこの歌で終わります。半崎さんは、「自分の歌がずっと、皆さんの日々の生活の中で寄り添っていけるような、そういう歌になっていったらいいなと思います」と話しています。

時代が求める歌姫

  • 半崎さんの歌が、なぜいま多くの人をひきつけるのか。
  • 音楽評論家の富沢一誠さんは、半崎さんのことを“観客にいちばん近い歌手”と評し、「広くあまたの人に届く歌というよりも、ひとりに向かって深く刺さるパーソナルな歌だからこそ多くの人たちが『私のために歌ってくれる歌だ』と感じて共感が広がる」と人気の秘密を分析します。
  • 「いまは自宅でも職場でも学校でもなかなか『泣けない』時代。自分の気持ちを出す場がない。そんな心の中にあるもやもやを代弁してくれる歌手と言えるのではないか」と話しています。
  • ショッピングモールで、一人一人の声に耳を傾けてきた半崎さん。この春、メジャーデビューを果たしたあとも「ショッピングモールは出会いの喜びをくれた原点」としてこれからもライブを続けていきたいと話しています。

出展:“ショッピングモールのうたひめ”秘話|NHK NEWS WEB(社会部=石崎理恵記者/科学文化部=信藤敦子記者)|2017年7月13日7時30分
ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (9) 石崎理恵記者 ショッピングモールのうたひめ半崎美子さん - NHK (10) 信藤敦子記者
(ひだり=石崎理恵記者)(みぎ=信藤敦子記者)

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(さんこう)