裁判員裁判第 1号（あめーば） - あきひこのいいたいほうだい

8月みっかからむいかのよっか間、制度ができてからはじめての裁判員裁判が東京地裁（秋葉康弘裁判長）でおこなわれた。

△ 全国はつの裁判員裁判がおこなわれた東京地裁 104号法廷。裁判員 6人は 3人ずつふたてにわかれ、「法壇」中央の裁判官 3人を左右からはさむようにしてすわる＝8月みっか午後 1時 21分（代表撮影）

日本で刑事裁判に市民が参加するのは、陪審制が戦前の 1943年に停止されて以来、66年ぶり。ことし 5月 21日の制度施行から 2カ月あまりで、戦後最大の司法制度改革が実施段階をむかえた。

第 1号の裁判員裁判で審理されるのは、東京都足立区の路上でことし 5月、整体師の女性（当時 66才）をナイフで刺殺したとして殺人罪にとわれた無職、藤井勝吉被告（72才）。

8月みっか午前

裁判員裁判第 1号のはつ公判が午後にひらかれるのをまえに、この公判での裁判員をえらぶ選任てつづきを東京地裁でおこなう。

地裁はこのつつづきのために裁判所をおとずれるように、「よびだしし状」を 73人に送付しとったが、このうち 18人の辞退がみとめられたほか、6人に書類がとどかんかったことがわかった。このため、合計 24人をのぞいた 49人が、選任てつづきのために出頭する必要があった。

選任てつづきでは、このなかから 6人の裁判員と 3人の補充裁判員がえらばれる。

東京地裁は 6月、管内の候補者名簿にのった 27,700人のなかから裁判員候補者 100人を選定。このうち、70才以上や学生、おもい病気で辞退を希望した 16人、この時期の参加が困難として辞退がみとめられた 10人、転居さき不明のひとり、の計 27人をのぞいた 73人に、このひ裁判所にでむくようもとめる「よびだし状」を発送しとった。

このよびだし状には辞退をもうしでることのできる「事前質問票」が同封されており、辞退希望者はこれに記入し、辞退をもうしでとった。

女性 5人、男性ひとりの計 6人の裁判員と男性 3人の補充裁判員がくじでえらばれた。

8月みっか午後

検察がわは証拠の説明をする際、「ショックでごらんになりたくないかもしれんが、重要な証拠なのでみてください」と裁判員にことわりながら、殺害された女性の遺体の写真を、裁判員らの席上に設置されたこがたモニターにうつしだされた。

かおをそむけるようなそぶりをみせる女性裁判員もおったが、おおくはモニターをみつめつづけた。この写真は傍聴人にみえるおおがたモニターにはうつされんかった。

検察、弁護がわは、冒頭陳述の内容の要点をメモにまとめて裁判員らに配布。裁判員はいずれも、左右のかべやてもとに設置された大小のモニターにめをむけながら「です、ます調」でかたられる双方の主張に真剣なまなざしでみみをかたむけたり、メモをとったりした。

裁判員の負担をかんがえ、立証のふしめに 2回、約 30分ずつ休憩がはいった。

裁判員は 3人の裁判官をはさむように左右ふたてにわかれて着席。傍聴席がわからみて正面のひだりから女性の裁判員 3人、女性裁判官、秋葉裁判長と男性裁判官の 3人をはさみ、女性の裁判員ふたり、男性裁判員ひとりの順に一列にならんだ。

補充裁判員 3人はいずれも男性で、その後方にすわった。

8月みっか閉廷後

午後 4時 40分ごろ、秋葉康弘裁判長が閉廷をつげると同時に、傍聴席後方の女性傍聴人がつぎのとおり発言。

「公判まえ整理てつづきで裁判のすじがきがきまっとるのに、なんで裁判員裁判をやる必要があるのですか。裁判員のみなさんはひとをさばくことを拒否してください。裁判員制度に反対です」

しらがまじりのこの女性傍聴人は地裁をあとにするときにも、あつまった報道陣にむかってこえをあげた。

「反対のこえが 8割おる。きょうもめをそむけたひともおっただら」「できあがったすじがきのなかでおこなわれとる。裁判員のおこなえることはかぎられており、事件の背景や経過をあいまいにしとる」とうったえた。

△ 全国はつの裁判員制度裁判のはつ公判がおこなわれた東京地裁まえでは反対派による抗議活動もおこなわれた（渡守麻衣氏撮影）

8月よっか

前日につづいて証人尋問がおこなわれ、近隣にすむ男性が殺害直後の状況を証言。6人の裁判員たちは前日よりは余裕がでてきたようすで、証人の表情をみたり、メモをとったりしながら、熱心にやりとりをきいとった。

午後は被告人質問などがおこなわれた。

8月いつか午前

女性裁判員のひとりが体調不良で欠席するというアクシデントがあったものの、交代した男性の補充裁判員をふくむ 6人全員が無職藤井勝吉被告（72才）に質問するなど、活発な審理が展開された。

最初に質問したのは、傍聴席からみて一番ひだりの女性。「被害者といいあらそいになったとき、なぜナイフをもっていこうとおもったのでしょうか」などとひかえめなこえできくと、藤井被告は「おどせばわたしのはなしに納得してくれるのではないかとおもったから」とのべた。

つづいて、そのとなりの女性裁判員も、「そのナイフはむすめさんの遺品でしたよね」とえんりょがちにといかけた。藤井被告は「うみでつかってボロボロになっとって、価値のあるものとはおもっとらんかった」と説明した。

補充裁判員から裁判員にえらばれた男性は 3番めに質問。「被害者が死ぬかもしれんとおもったのに、救急車をよんだり、110番をしたりすることはかんがえんかったのですか」とはっきりした口調でたずねると、藤井被告は「近所のひとがそとにでとったので通報してくれるとおもい、おこたってしまった」ときまずそうにこたえた。

のこる 3人の裁判員も、「犯行時、被害者におしかえされたというのはまちがいないですか」、「事件をおこしたあと、4万円をおろしとるが、警察にいったとき、所持金はいくらでしたか」などと、これまでの藤井被告の供述内容をただした。

そのあと、裁判官の質問につづいて、ふたたび補充裁判員からえらばれた男性が、「あなたは、『犯行時は無我夢中で記憶にない』としとるが、昨日は、『せなかをさしたとき、てに皮膚の感覚があったと記憶しとる』といっとる」とたずねた。藤井被告が「はい」とこたえたきりくちごもると、男性は「はい。わかりました」と質問をうちきった。

8月いつか午後

非公開の最終評議にはいり、裁判官 3人と裁判員 6人が、被告の刑のおもさをきめるためにはなしあった。評議は 5時すぎにいったん終了。

検察がわが懲役 16年を求刑し、被害者遺族がわが懲役 20年以上が相当としたのにたいし、弁護がわはよりかるい刑とするようもとめとる。

主要な争点は被告の殺意の程度をどうみるか。評議では、法廷での証人の証言や証拠を点検してどのような犯行状況だったかを認定。「つよい殺意があった」とする検察がわ論告と、「確実にころそうとはおもわんかった」とする弁護がわ最終弁論のいずれの見解が適切かなどをはなしあう。

8月むいか

東京地裁の秋葉康弘裁判長は、殺人罪にとわれた藤井勝吉被告（72才）に懲役 15年（求刑懲役 16年）の実刑判決をいいわたした。市民からえらばれた裁判員 6人が裁判官とともにしめしたはつの判決は「つよい殺意があった」と 検察がわ主張をほぼみとめたかたちで、きびしい量刑となった。

裁判員をつとめたのは 38才から 61才の女性 4人と男性ふたり。いずれも判決いいわたしにたちあった。判決後に男性の補充裁判員ひとりをふくむ計 7人が記者会見に応じ「知識もなく、判決をきめるのはたいへんだったが、貴重な経験ができた」などと感想をかたった。

まずは、ぶじにおわったというところか。