あきひこのいいたいほうだい

いいたいほうだいってほどいいたいほうだいにいえるわけじゃないけど、おりおりにかんじたこと、かんしんしたことなんかをかいていくよ

安藤広重と牡丹のであい

きょう2019年11月12日、中京スポーツ連載の大下英治『いろ艶筆』に、安藤広重と牡丹のであいのばめんがえがかれとるのをみた。

大下英治
ひめくりエッセーいろ艶筆
しりのゆすりでこぶねが
安藤広重は、新編「東海道五十三次」をえがくたびで三河の岡崎で俳諧師の牡丹とであい、牡丹と矢矧橋のしたのかわらにおり、こぶねにのりたのしんだ。
牡丹は、あおむけのおとこにまたがる『しぐれちゃうす』から上体をうしろにそらす『そり観音』の体位にうつった。牡丹は広重にぬれにぬれたべにいろの観音をみせつけながら、広重のかりくびをすっぽりとくわえこんだ。そのまま、器用にからだをまわし、ゆたかなしりを広重にむけた。『ほかけぶね』の体位だ。
そのおおきなしりをあやしくゆすりはじめた。
「ああ、ふかいの。ふかいわ。おくまで、かんじるの。かんじるの・・・」
牡丹は、たまらなさそうなこえをあげては、しりをゆっくり、あやしくゆすりつづける。
広重もたまらなくかんじていた。女陰(じょいん)のおくのおくまで、つきはいっている。ただ、こまるのは、おおきなしりがゆれるたびに、しりのうごきにあわせて、こぶねもゆれることである。牡丹は、かまわず大胆にしりをゆすりつづける。
「あぁ、かんじるわ、かんじるわ・・・」
しりのうごきが、いっそう大胆になっていく。
広重は、ついにくちにだした。
「お、おい、そんなにはげしくうごかしては、ふねが、ひっくりかえってしまうではないか」
牡丹は、かまわずしりをゆする。広重がおびえるのがおもしろいのか。
「広重さん、そんなにいのちがおしいのかい。人間、どうせ白骨になるんだ。いつ、どこでなったって、おなじじゃないか。いま、こうして・・・」
牡丹は、ゆっくりとしりをまわしながらしゃべりつづけた。
「たのしみながら、ふねがひっくりかえって死ねば、最高じゃないのさ」
広重は、おんなにそこまでいわれ、それ以上おびえをみせるのはやめた。
牡丹が、くびをまわし、広重をみて注文をつけた。
「ね、広重さん、わたしにばかりおしりをうごかさせないで。おまえさんも、まわしづき、して・・・」
広重は、ふねのゆれがおそろしく、じぶんのほうからははげしくうごかなかったのである。
牡丹にせがまれ、広重ははらをきめた。
<えーい、ひっくりかえるならひっくりかえれ。死ねば、あのよの女房ともはやくあえる>
じぶんでおおげさにもそういいきかせ、まわしづきをはじめた・・・。
おおした・えいじ
1944年6月7日、広島県うまれ。ノンフィクション作家。政財界から芸能界にいたるまで、各界の人物伝などを多数執筆。
イラスト・明玖美(めぐみ)
2019.11.12 中京スポーツ - 大下英治『いろ艶筆』 1470-1310